発達性協調運動障害は、個々の身体機能に問題がないにもかかわらず、極端に不器用で、運動が苦手、というお子さまたちです。これまでは、「練習不足」「ふざけている」などと思われたり、叱られたりして、お子さま自身も困っていましたが、現在は、脳が運動を協調(コーディネート)できない障害であり、ADHDやASD、SLDなど他の発達障害と併存することが多いことも知られてきました。
発達性協調運動障害<DCD>の特性を持つお子さまが抱える困難さ
- スプーン、おはし、コップなどがうまく使えない
- ハサミで形を切り抜くのが難しい
- 糊の量の調整が難しく、手や作品がベトベト
- 着替えが遅い
- 塗り絵がはみ出したり偏ったり、うまく塗れない
- 階段の上り下りがぎこちない
- リコーダーが吹けない
- 言葉が不明瞭で聞き取りにくい
- 縄跳びや跳び箱などが苦手
など、体育に限らず日常生活の様々な場面で困難さを抱えています。
まだまだDCDの認知度は高くはないため、「練習が足りない」「ふざけている」「怠けている」と捉えられ、反復練習を強いる指導がされがちで、子どもの自尊心自己肯定感を低下させてしまいかねません。
発達性協調運動障害<DCD>の特性を持つお子さまへのPal教室での療育実践例
Pal教室では、ABA(応用行動分析)の考え方を取り入れた療育を行っています。
ABAの基本的な考え方とは、行動の原因を子どものせいにするのではなく、子どもを取り巻く環境との相互作用の結果、として捉えるというものです。
ここで言う環境とは、物理的な状況もありますが、私たち大人や周囲の人的な状況も含まれ、特に小さなお子様の場合、大人との関わり方の影響がとても大きいと考えています。
私たちは療育を行う際に、子どもの行動について、A「行動の直前の出来事」、B「行動」、C「行動直後の出来事(結果)」という3つのフレームで分析を行っています。
このABCフレームを用いた分析により、A(環境の調整や私たちの指示の出し方)やC(行動に対しての私たちの反応など)によって、望ましくない行動を減らしたり、望ましい行動に変えることが出来る、特に「望ましい行動を褒めて増やしていく」というのがPal教室の療育の基本です。
DCDの特性を持つお子さまは、定型発達の子どもたちのように自然に感覚的に理解して上達していくのは難しいので、療育の場がとても重要になります。
Pal教室では、プレッシャーやコンプレックスを与えずに、ビジョントレーニングや運動、制作を楽しむというのが基本です。
例えば、でんぷん糊の量の調整が難しくいつも多く取りすぎてしまう、というお子さまに対しては、「でんぷん糊を適量取る」という行動に注目し、量の認知に課題があるのか、取るための手の使い方に課題があるのか、感覚的に課題があるのか、など細分化して課題を抽出します。そして、その子の課題にあわせて、「丸まったダンゴムシの大きさ」などと具体的に楽しくてイメージしやすい言葉を選んで指示をしたり、「1本指で取るよ」と1の指の出し方から練習をしたり、あらかじめ糊の蓋などに適量を出しておくなど環境を調整したりして、「これが適量なんだ!」と理解を促し、適量で糊を取ることを強化しています。
これを繰り返すことで、徐々にサポートが無くても自分で適量を取れるようになっていくのです。
Pal教室の療育は、できないことを強いる場ではありません。
ABCフレームのAを工夫し、「できた!」で終わり達成感を味わってもらう場なのです。